
右ハンドル仕様の現状
近年、アメリカ車メーカー製造の車両を日本向けに右ハンドルで販売する例が徐々に増えています。
従来は左ハンドル車が主流でしたが、日本の道路事情に合わせるため、メーカー正規輸入品にも右ハンドル仕様を導入する動きが見られるようになりました。
たとえば、ジープの現行「Wrangler」は日本仕様としてすべて右ハンドルで展開されており、正規ディーラーで購入できるモデル数が増えています。
また、グランドチェロキーについては、現行5代目モデルの右ハンドル仕様が2025年2月28日に生産終了し、日本向け最終モデル「グランドチェロキー ファイナル エディション」が100台限定で発売されました。
この限定車は2025年3月15日から販売され、生産終了を迎える右ハンドル版を締めくくる一台となっています。
一方、フォード「マスタング」はメーカー正規輸入による右ハンドル設定がなく、右ハンドル版は輸入代理店などが英国から直輸入し、日本の法規に合わせて改造するケースが大半です。
たとえば、FLCグループが英国仕様の右ハンドル・マスタングを直輸入し、日本の保安基準に適合させて販売する事例があり、これにより日本でも右ハンドルのマスタングを所有できるようになっています。
つまり、「マスタングの右ハンドルはメーカー正規品ではなく、個別輸入・改造によって実現されている」という点に注意が必要です。
さらに、ピックアップトラック(例:フォード「F-150」)においては、正規輸入での右ハンドルモデルはほとんど存在せず、国内で流通するほとんどが左ハンドルです。
そのため、「F-150 Lightning」などEV版を含めても、日本では左ハンドル輸入が大半で、メーカー純正の右ハンドル設定はありません。
「F-150」の右ハンドル化を望む場合は、並行輸入業者や改造専門ショップに依頼する必要があります。
技術的・コスト的な課題
アメ車を設計段階から右ハンドル仕様にするには、ステアリングシャフトからダッシュボード、ブレーキ配管やエアコンダクトの配置まで大規模な再設計が必要です。
そのため、車両開発コストが膨大になりやすく、販売台数が限られる日本市場向けに専用で生産ラインを設けるかどうかは、メーカーの判断が重要になります。
実際、販売見込みが十分でない車種は右ハンドルを導入せず、左ハンドル仕様のみで輸出・販売していることが少なくありません。
また、右ハンドル化に伴い安全基準(NCAPやFMVSSなど)の適合検査を再度実施する必要があり、専用の試験車両を用意したり、衝突試験をやり直したりするなど、時間的・金銭的コストがかかります。
これに加え、部品調達や組み付けラインの改修も必要になるため、最終的に製造コストが上昇し、車両価格を高く設定せざるを得ないケースが少なくありません。
メーカーが右ハンドル版を正規ラインナップに加えるには、これらの開発・試験コストをペイできるだけの販売ボリュームと利益が見込めるかどうかが鍵となります。
日本市場の需要と供給のギャップ
日本国内では右ハンドル車が当たり前であるため、輸入車であっても多くのユーザーは最初から右ハンドル仕様を求めます。
特に都市部では狭い道路や立体駐車場での取り回しを重視するため、左ハンドル車には不安を感じる人も少なくありません。そのため、右ハンドル仕様のアメ車があれば検討する層は一定数存在します。
しかし、正規ディーラーで取り扱われる右ハンドルモデルは価格が高めに設定されるケースが多く、並行輸入や個別改造を検討するユーザーも少なくありません。
並行輸入車は部品供給やアフターサービス面で不安が残るため、安心して乗り続けるには専門店や並行輸入代理店とのつながりが求められ、購入を躊躇するケースもあります。
結果として、「欲しいモデルがあっても供給が追いつかない」「購入ハードルが高い」というギャップが生じている状況です。
ただし、最近では並行輸入を手掛ける専門業者の増加や、一部正規ディーラーによる受注生産対応などで、少しずつ状況は改善しています。
電動化やプラットフォーム共通化の進展により、将来的に右ハンドル化にかかるコストが下がれば、メーカーが右ハンドル仕様を標準ラインナップに加える可能性が高まるでしょう。
そのため、日本のアメ車ファンにとっては、今後の動向に注目しておく価値があります。